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Sexy Zoneマリウス葉さんの愛と成長を知らない。

 

「all this time」「二十歳」のたゆたう光と影の時間にいる君たちへ。

 

 2020年8月24日 掲載

 

「二十歳」のころ、覚えてますか?

わたしはもう忘れてしまった。できればこの曲を「二十歳」のころに聴いてみたかった。

「all this time」はSexy Zoneというアイドルグループのメンバー、マリウス葉さんが最新アルバム「POP × STEP!?」において発表したソロ曲なんだけど、わたしがこの文章を書こうと思ったのは、とにかく「二十歳」という子どもと大人の狭間の時間に立ち止まり、振り返り、未来への希望の光をささやかに灯すような優しいこの曲に、心がふるえるくらい感動したからである。

 ゆるやかなミディアムテンポのシンプルなアコースティックギターサウンドにのせて紡がれるその優しい歌詞は、マリウス葉さんの「二十歳」のリアル……かもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 さて、マリウス葉さんとは。

 彼はドイツ産まれ、ドイツ人の父、日本人の母を持つ当時11歳。東日本大震災に心を痛め「人を幸せにしたい」と来日し、アイドルグループのメンバーとしてデビュー。

 約9年、子どもから大人への長いような短いような階段を、日本の芸能界で紆余曲折ありながらゆっくりと登ってきました。たまにテレビに出ています(主にバラエティー)。今は学業優先で大学生とアイドルの二足のわらじを履いて頑張っている「二十歳」の男の子。

 音楽好きの皆さま、「いちアイドルのソロ曲」というだけでバカにしていませんか?

 ハイ、してました。かつてわたしも。

でもね、違いました。

 この曲はまず、メロディが泣きたくなるくらい優しくてあたたかくて秀逸。そして歌詞はほぼ英語なんだけど、これがまたよいのです。

 それは「声」。

 マリウスさんのメロウで甘く、かつ不思議な透明感のある声、言うなれば寒い冬の日に飲むあたたかいレモンティーのようなまろやかと爽やかが見事に調和しているような声と、英語のやわらかな発音。そして高くも低くもない狭い音域のゆったりしたメロディライン。

 すべてがうっとりと、せつなく、あたたかく、悲しいことがあったわけじゃない、でもなんとなく不安で、ちょっと自分を励ましたい時にこの曲を聴きたい。そんな時、そっと心を包んでくれる名曲です。

 マリウス葉さんは、もともとすごくキレイな声の方なのだけど、Sexy Zoneの楽曲の中ではなかなか生かすことができなかった、希有な声質の良さがこの曲で遺憾なく発揮できていることも、このソロ曲は珠玉であるというひとつのポイントじゃないかな。これぞソロ曲の醍醐味ですよね。

 

 さてここで歌詞を抜粋。

…………しようかと、歌詞カードを見つめていたんですけれど、迷ってしまって選べませんでした。

「二十歳」のマリウス葉さんの言葉は、本当にどれもシンプルで、それでいてあたたかさに満ちていて、「これ!」という印象的なフレーズはないかわり、人柄や素直さ、その悲しみ、そして希望が、ただ静かに聴いている人の心をうつのです。

 

 本当に、生きるって難しいよね。

 なかなかうまくなんていかない。ちっとも思い通りにならない。

 大好きな人と、ケンカしちゃったり。

 大好きなのに、傷付けてしまったり。

 たくさんの笑顔。たくさんの涙。

 覚えている。まだ覚えているけど、笑顔より涙が心に残ってしまう。

 

 たしかに彼はいま、「二十歳」のなか。

 過去はまだ近く、未来は遠いようで、もう手を伸ばせば自分でつかめそうな場所にある……ような気がする。不確かで、あやふやで、でも希望の光はある。どこに?

それは不確かな未来にではなく、自分のいまここにいる 胸のなか。

 自分の心、過去を否定せず、ちゃんと受け止め、いまここまで歩んできた自分を肯定し、少しずつ望む未来へ進んでいこうとする、彼の心のなかに「希望」があるのだと。

 

 芸能界という移り変わりの激しい世界で11歳から20歳という子どもから大人への時代を過ごした彼が、こんなに前向きで堅実で、背伸びも自虐もしない、あたたかく素直な言葉を紡ぐことができることが、本当に驚きです。きっとよい人間関係に包まれていたんだろうな、と思う。

 

 わたしはまだ最近……1年半くらいかな。マリウス葉さんのグループ、Sexy Zoneを知ったばかりなので、彼の過ごした9年、その彼の愛と成長を知らない。

それでも、この曲、彼の言葉は、こんなにもわたしの心を揺さぶる。

 かつて二十歳だった人も、これから二十歳になる人も、いま「二十歳」にいる人も。

「all this time」を聴いてみてほしい。

 人生は長い。たゆたう光と影。子どもと大人の狭間で、それをじっと見つめて。

 失われし面影もまだ近く、未来への希望はまだこの手のなか。

 この手のなかの希望が、大きく花ひらく日をただひたすら、ひたむきに一歩一歩進んでゆこう。

 そんな彼の言葉は、「ちょっと疲れちゃったな」「明日はいいことあるかな」って思ってる人の心をそっとあたためてくれるんじゃないかな、と思います。本当だよ。聴いてみて。

  

「ママが言ってくれたのを覚えている

やりたいことを、やればいいと

なのに、なんでこんなに難しいんだろう

楽しくて、自分を笑顔にするものを

見つけるコトが

 

大人になったら、僕らは知るだろう

僕らが試したすべては

凄く難しいこと

 

僕らには楽しむための時間がある

だから全てを投げ出さないで

 

君にも良くないし

僕にも良くない

だって僕ら、最高だから」

 

「all this time」

作詞:Marius Yo/Kanata Okajima

作曲:Andy Love/Andres Oberg/Christoffer

Semelius

 

「POP × STEP!?」通常盤

  by SexyZone 2020