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世界を変えるのはいつも

Sexy Zone「Change the world」

2021年3月5日 掲載

彼らがこの世に生まれでたとき

その手のひらはまだ本当にちいさかった。

高く透きとおった無垢な少年の声で、自分たちの名前をたからかに叫んでいた。

「We are Sexy Zone

その時はまだきっとその重みを知らなかった。

いまはただ、誇るべきその名前を。

Sexy Zone

  彼らのことをすこしでも知っているでしょうか?

彼らはアイドル。年齢若干14歳という前代未聞の衝撃を世に与えて鮮烈にデビューを飾った5人組のジャニーズのアイドルグループだ。

それはもう今から約10年前の話。当時芸能ニュースなど雑音にしか思えなかったわたしにもその華々しいデビューのしらせはおおいなる驚愕とともに耳に届いたものだった。

  だってとにかく5人ともめちゃくちゃキラキラ。まあジャニーズなのだから当然なのかもしれないけれど、なにより本当に彼らはちいさかった。

声変わりもまだ途中の透きとおったエンジェルボイスの男の子たちが「ぼくたちがセクシーゾーンです!」とやや緊張気味ながらも無邪気に笑顔を見せる姿は、なんというか、「おお………」とテレビ前でのけぞるしかなかった。

まあ、本当に子どもだったので。

その時はそれ以上の印象を持つこともなく時は過ぎ、2019年、偶然彼らのパフォーマンスを見て突然わたしは彼らの音楽性と人間力に惹かれ瞬く間にファンになってしまうのだけれど、当時の自分に言ってもこれは絶っっっ対に信じないだろうな、と思う。とかく沼というものはそれと知らずいきなり目の前に現れるものである。

2021年、そんな彼らは10周年を迎え、この3月3日に発売された10周年記念アルバム「SZ10TH」で「RIGHT NEXT TO YOU」「Change the world」という新曲を発表した。

彼らは間違いなくアイドルなのだけれど、わたしが自分でも驚くくらいのスピードで彼らのファンになってしまったのは、その楽曲のクオリティの高さにがある。

リード曲「RIGHT NEXT TO YOU」は全編英語詞というチャレンジに加え、彼らのもとよりのパフォーマンス力の高さをフルに生かした目の覚めるような鮮やかなフォーメーションダンスと世界を意識したクオリティの高い楽曲が話題となり、ショートバージョンのMVはYouTube急上昇1位を獲得するという快挙を成し遂げた。

 もともとわたしはジャニーズのCDを買うという習慣がなかった。これは完全に好みだと思うんだけれど、ユニゾンの歌唱というものにどうしても曲としての魅力を感じなかったからだ。

 わたしがまずSexy ZoneのCDを聴いてめちゃくちゃ驚いたのは、そのユニゾンがとにかく美しいこと。

といってもメンバー5人の声に似かよったところはまるでない。

 中島健人さんの透明感ありながらも不思議な色香のあるハイトーンボイス、菊池風磨さんの濡れたような艶のあるややハスキーな声、佐藤勝利さんの硬質なガラスのようなきりりとした印象の声、松島聡さんの清涼感ある少年のようなきれいな歌声、マリウス葉さんのまろやかでやわらかい色々なものを包み込んでくれそうなエンジェルボイス。

 初めて彼らの歌をちゃんと聴いたとき、5人それぞれ本当に様々な個性をもつ声質ながら、合わさった時のたぐいまれなき美しさにはっとさせられた。ここぞというときに耳に心地よく響いてくる伸びやかな5人の歌声のハーモニーは、素晴らしい楽曲の魅力を余すところなく伝えてくれる。

この新曲「Change the world」も、その彼らの武器であるユニゾンの美しさが堪能できるとても美しいメロディラインの良曲であるとともに10周年にあたり、メンバー5人が作詞したメモリアルな1曲となっている。まさにmade in Sexy Zoneな彼らの歩みの詩なのだった。

「Change the world」というこの曲。

彼らはかつて、世界を変えたいと望んだのだろうか?

世界を変えたいと望む気持ちが表れているのか?

「Hey! 想いよ届け

Yeah! 夢に踊る

With you With you ほらおいで

何度も何度も挑むんだ」

この希望に満ちあふれた歌詞と、曲名の示す意味はなんだろうか。

「世界を変える」とはどういうこと?

人生というものをそこそこ長く歩み続けていると、世界を変えたい、または世界が変わった、と思う瞬間が訪れることがある。

「Change the world」というタイトルで思い出す。わたしの場合、それは結婚式の日であった。

といっても、永遠の愛を誓い……というようなきれいな話ではなく、自分のどうしようもないバカさに気づいたのだった。それが世界が変わった瞬間だった。

あれはもう○○年前のとても寒い日。それは誇張ではなく本当にとてつもなく寒い日だった。なにしろ大阪に大雪が降っていたのだから。

その寒すぎるまだ暗い日の早朝、わたしは田舎にいる母に泣きながら電話をかけていた。わたしと夫は準備があるので、前日から式場のある大阪に泊まっていたのだった。

わたしには大好きな祖父がいた。母方の祖父は本当に優しくあたたかい日だまりのような人で、ただただ自由気ままでわがままな孫娘の個性をおおらかに受けとめてくれた。

 それというのも、祖父にとって母がわりと高齢になってからやっとできたただひとりの娘だったからというのもあると思う。祖母は身体が強くなく、母が20歳になる前に儚くなってしまったらしい。

男手ひとりで母を嫁に出すのは本当に大変だったのだと、わたしはちいさい時からくり返し聞かされた。今ならいざ知らず昔のこと、結納、嫁入り道具、結婚式と、本来なら夫婦で協力しあいすすめる準備という準備を、祖父は親類の手を借りつつたったひとりでしなくてはならなかった。

 わたしには兄弟もいるが、孫娘はわたしひとり。その時の大変な思いと結婚式の感極まった嬉しさをくり返し語る祖父は、わたしの結婚式をとてもとても楽しみにしていたのだ。

「たぶん、思い出すんだろうね。その時のことを」

そう語る母も懐かしそうな顔をしていた。もちろんのこと、母も祖父を深く愛していた。わたしから見てもお互いをとことん思いやる本当に仲むつまじい親子だった。

そんなこんなで迎えた結婚式だったが、当日はなんとその冬一番の寒波が到来し、数年ぶりに大阪にも雪が降った。

もちろん、わたしの実家のある田舎もおそらくは大雪に違いなかった。わたしは突然心配になった。

祖父は一週間ほど前から軽い風邪を引き、体調次第では結婚式に出られないかも、という話を母から聞いていた。祖父はもう90歳近い高齢だったのだ。

あんなに、あんなに楽しみにしていたのに。

理由はもう忘れてしまった。どうしても1月がいいとわがままを通したのはわたしだった。式場もそう。もっと近くにないの?と言う母の困り顔を無視したのはわたしだ。

どうして、どうしてこんな季節にしてしまったんだろう。どうして祖父のことを考え、近くの式場にしなかったんだろう。誰より喜んでくれた、誰より見せたかった祖父がもし来られなかったらわたしのせいだ。

 心配で眠れず、まだ暗い早朝、母に電話をかけた。今思えば式前の緊張と不安ですこしパニックになっていたのかもしれない。

 ただおろおろと、泣きそうになっているわたしを母は最初はなだめようと優しい声を出していたが、らちがあかないと思ったのか、しまいには突然キレた。

「いい加減にしなさいっ。あんたにはもう、新しい家族がいるんでしょうが。こっちのことはいいから、そっちのことだけを考えてなさいっ」

おっとりして大きな声を出すことさえめったになかった母にあれほど激しく怒鳴られたのは、後にも先にもあの瞬間だけだった。 びっくりして涙も瞬時にひっこんだ。

「お父さんも、思ったよりは元気にしてるから。こっちのことは大丈夫だから」

  お父さん?

「?」 のマークが頭にとびかうわたしを取り残し、母はさっさと電話を切った。

すっかり忘れていたけど、無口で穏やかであまり子どものことに口を出さない父にとって、わたしは頑固でわがままで無鉄砲で、散々心配をかけまくった弾丸娘であった。結婚のことにも何も言わなかったが、ただひとつ新居を実家から遠く離れた場所にした時だけ、すこし寂しそうに「遠いなぁ……」と呟いていたのを覚えている。

気がつくと、ぐーすか寝ていたはずの夫が起きていた。式場のこと、季節のこと、母に違う意見を言われているのだと話したとき、「よくわかんないけど、お母さんの言うことをきいといたほうがいいんじゃないの?」と諭してくれたのはこの穏やかな夫だった。きかなかったのはわたしだ。

ごめんなさい、とわたしは激しく後悔した。ごめんなさい。ばかだった。わがままだった。子どもだった。まわりの人はみんな優しくて大人だった。ただただ自分の愚かさに泣けてきて、結果まぶたは2倍程度にも腫れあがった。

結局、無事祖父も母も父も式場に到着し、さらに祖父はすこぶる元気だった。俳句が趣味だった祖父がこの日のために俳句を詠んでくれるサプライズまであった。その後に司会者からひと言コメントを求められた祖父は、マイクがキィーンゴボボと耳障りな悲鳴をあげるくらい超特大の大声で「幸せになれよ!」と叫んだ。会場中の人たちがうっとこらえる中、当の祖父だけが平然としていた。祖父は耳がとてつもなく遠かったのだ。

背筋が伸びる思いで、わたしは「はい」と思った。わたしには幸せになる義務がある。幸せになって、心配をかけたたくさんの人たちを安心させてあげなければならない。それがきっと祖父を幸せにする。祖父がわたしを大事にしてくれたのも、祖父が母をなにより愛しているからだ。愛と優しさといたわりで、わたしたちはみんなみんなつながっている。この自分を包み込んでくれているたくさんのぬくもりに気付いたとき、わたしの世界は変わったのだった。もう20歳をとうに越えた年齢での、遅いといえば遅すぎる気付きであった。

祖父はもういないけれど、あの雪の日、祖父のあの言葉を聞けて本当によかったと思う。愛を知れてよかった。

まだ10代の年齢でデビューしたSexy Zoneたちも、世界が変わる瞬間があっただろうか、と思う。デビュー当時のことはリアルタイムでは知らなかったけれど、本当に様々なことがあったグループなのだ。

それは試練であったり、己のうちの葛藤であったり、ぶつかりあって傷付いたことであったり。自分自身で精一杯なときに他者を思いやる余裕などない、そんな年代は誰しもあるはずだ。

そんな、聞いている方にしてみれば時に痛くも感じる言葉の数々が、赤裸々な想いが「Change the world」にはたくさんたくさんちりばめられている。

幼くしてデビューした彼ら、その当時はまだ未熟で、そして彼らをとりまく環境もけして生易しいものではなかったかもしれない。

 それでも、彼らを包んでくれる輪の中にはいつも彼らを見守る愛があったのではないか。「Change the world」のMV、そして10年経っても強く、ただまっすぐ前をむく彼らを見ているとそんなふうに感じてしまう。

けしてきれいごとではすまない芸能界という世界の中で、彼らはまさに人間形成の時期を過ごし、大人といわれる年齢になった。

ことあるごとに「今あるのは支えてくれたファンのおかげ」「Sexy Zoneと関わる人たちに誇らしい思いをさせてあげたい」と周囲への感謝を口にする彼ら。

そしてその言葉どおり、何事にも驚くほど真面目に誠実に取り組む彼らはとうに、わたしが20代半ばにしてようやく泣きながら悟った自分を包み込んでくれている愛やいたわりの重みをしっかりと感じ、受けとめているのではないかと思う。

稀代の天才プロデューサーに幼くして才能を見込まれた5人。優しい彼らは周囲の期待を一身に背負い、時に応えられなかったことが本当に悔しくつらかったかもしれない。それでも歌詞のとおり、何度も何度も挑んできた。

強く、折れない心。傷だらけでも。陽を浴びて育った樹はまっすぐで強いのだと感じる。

きっといつか、どんな風雨の中でも揺るがずに広い空に枝を伸ばし、彼ららしい色の花を咲かせてくれると思う。どんな花でもいい。彼ららしい色であれば。

もし10年前、いや何年か前に彼らを見て、「ああ、知ってる」と思う人がいても、その彼らと今の彼らはまったく違う。驚くほどの速さで彼らの世界は変わり続けている。まさにその「Change the world」の曲名のとおり。

表現力も、歌唱力も、パフォーマンスも、そして強さも、弱さも、優しさも。

自分たちを包む愛を知り、たくさんの傷や痛みを抱えながらも翔ぶように進化してゆく彼らの世界は、はたして美しいだろうか。

美しくあってくれるよう、支えてあげたいと思う。彼らを包む愛とぬくもりでありたい。

夢の中で踊るような日々であっても、奢ることなくただ真摯に近道のない道を歩んできた彼らがありふれた日々を生きる喜びを、今を生きてゆく勇気と幸せを教えてくれる。5人で作詞したという「Change the world」にはそんな10年間を歩んできた力強さを感じる。

きっと強くなった。痛みのぶんだけ強くなり、今また大切なものを背負って。

「Change the world」を聴くと、青くて子どもだった自分を思い出す。そして、世界を変えるのはいつだって自分なのだということを強く思う。

他者の決めた価値ではなく、愛がここにあればいい。愛とぬくもりと痛みを知る彼らはきっとこれからもきっと強く歩んでくれるのではないかと思う。

 確かなことはわからないけれど、明日もしなにがあっても、いつかこの夢が終わっても終わらなくても、10年間、時に風雨にさらされながらも強くまっすぐな強い樹になった彼らが信じる道を、自分も信じたいと思うのだ。

子どもから大人になり、世界が愛に満ちていることを知った。変わった世界はとても美しく見えた。

「Change the world」がどういう意味や意図で付けられたのか、定かなことはわからないけど、うつくしくあざやかに、あたたかく包まれながらうつり変わってきた彼らの抱く「世界」を、これから変わってゆくだろう「世界」を、そしてとびだしてゆくかもしれない「世界」を見届けたいと思う。

彼らの音楽がこの先どんな風に描かれてゆくのか楽しみでならない。どんな形でも、完璧に完全じゃなくてもいい。きっと愛とぬくもりの輪が彼らをつないでくれるに違いないから。

 いびつでもいい。いつかきっと完全な輪になるはずの、光に満ちたその日まで。

「Change the world」

Sexy Zone10周年記念アルバム「SH10TH」収録