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POPなSTEPじゃなくても。

Sexy Zone2020ツアー「POP × STEP」小さな窓から愛、そして混沌とした世界を生きる。

2020年11月5日 1705 掲載

 幕が開き、幕が降りる。

 わたしは万感の想いで暗転したちいさな板を見つめる。

 きっとそのステージを見ていた日本中の人たちが、同じ祈りを胸に5人の若者の笑顔と涙を見守っていたんじゃないだろうか。

 そう、見守ることしかできない。いまは。

 手を振ることも、大声で愛を叫んでかれらに届けることもできなかったけれど。

 2020年、この時、この世界。

 たしかにわたしたちは繋がっていたと思う。

目に見えない電波で、目に見えない熱い想い、そして心はたしかに繋がっていた。

 それはきっと彼らがこちらに「伝えよう」「伝えたい」と強い想いをこめてその場所に立っていてくれたからではないかと思う。

 そんなふうに感じることができた、そんな2020。

 Sexy Zone、9年めの彼ら。

 なにも隠さずなにも否定せず過去の傷も悔しさもすべて抱いて、ただひたすら前を、未来をまっすぐに見つめる。

 そんな5人のまばゆいくらいの光あふれるステージが、モノトーンだった2020年に花が咲いたような彩りをくれた。

 この時、この瞬間を、きっと忘れないと思う。

 そもそも、来年10周年を迎えるジャニーズ アイドルグループ「Sexy Zone」がファンのみならず様々なジャンルの音楽通に『名盤』とのお墨付きをいただいた「POP × STEP!?」を堂々ひっさげて全国ツアーをスタートするはずだったのは、まだ春の足音も遠い3月のはじめのことだった。

 そこからの急転直下。世界はがらりとその景色を変えた。

 様々なエンターテイメントが本来咲き誇るはずであった場所と機会を失い、SexyZone「POP × STEP」ツアーも、再三の延期、再開、延期ののちに中止。配信ライブに切り替えることとなった。

 9カ月にわたるリハーサル。そのたび何度も作り替え、作り直し、やっと「POP × STEP」は日の目を見ることとなったのである。

 2020年、世界中の注目を集めるはずだった「日本」、そして「Tokyo」。

彼らのアルバム「POP × STEP!?」、そしてそのステージはまさにその「日本」、「Tokyo」において、「我はここにあり」と、存在証明の産声をあげるような、彼らの熱い血潮と強い意志が感じられるものであった。

 まず冒頭。

 目にとびこんでくるのは闇のなかの色とりどりのネオンのステージセット。

 漢字、カタカナ、塔であったり手裏剣のようなモチーフもあり、混沌としたそれは外国から見た「日本」をイメージしているという。

 そこからはじまる映像美に、まずは圧倒され、一気にその世界観に引き込まれてしまう。

「Welcome to Land of the Riging Sun」

という英語の堪能なメンバー、マリウス葉のうつくしい声の導きによって展開されるのは、日本でありながら日本でない、どこにもない、でもどこかにありそうな気がする、世にも不思議なめくるめく鮮やかな異世界

 きらきらと、ギラギラと。摩訶不思議なテクノサウンドにきらびやかなネオン、踊り狂う人形たち。

乱雑に入り乱れ妖艶な顔を見せる迷宮に迷い混み、気がつくとそこにあるのは1枚のレコード「POP × STEP」。

 能面のDJが針を落とし、唸るようなギターサウンドが始まりの時を告げた。

 たからかに、誇りかに、「SZ music 集まれ」と歌い上げるアルバム表題曲「極東DANCE」で、そのステージは幕を開けるのである。

 そこから続く「ROCK THA TOWN」、「BON BON TONIGHT」はまさにライブのボルテージを一気にぐっと引き上げてくれる痛快なアッパーチューン。春先、初めて配信ライブですこし遠慮がちにこちらに呼びかけてくれていた彼らはもうどこにもいなかった。

 驚いたのは、無人の会場であっても、彼らはとにかく全力で唸り、叫び、煽る。いっそ気持ちいいくらいに全力で。

 ペンライトの海の中に、彼らはファンの笑顔が見えているのかもしれない、と思えるくらいの渾身のパフォーマンスに見ているこちらの気持ちも一気に熱くなった。

そして2019年唯一のシングル「麒麟の子」を厳かに歌い上げた後、突然鳴り響く軽やかなチャイムの音。

 登場してきた緑の学生服のメンバー4人が、さわやかな青春の時を思わせる「BLUE MOMENT」、恋愛にじたばたする様をチャーミングに描いた「まっすぐのススメ!」、まぶしいくらいきらきらしたまっすぐな求愛のキュートソング「Lady ダイヤモンド」の3曲で、教育実習生の先生に告白して玉砕する、というミニドラマをコミカルに演じつつ、アイドルらしい軽やかなダンスと歌声を披露した。

 そしてその後、各メンバーの個性あふれるソロ曲を美しく鮮やかに表現した映像に導かれ、4人連続してのソロコーナーが続く。

 ファンへの大きな愛をさわやかに軽やかに歌い踊る中島健人、20歳の「今」という時間をごくごく素直にまろやかで語りかけるような優しさで歌うマリウス葉、ステージに立つものの光と影を歌った曲をショーに立つ自分を演じつつ表現した佐藤勝利、3人の男女の恋愛模様をシックにセクシーにしっとりと歌い上げた菊池風磨

 彼らのソロコーナーが秀逸なのは、4人が4人ともおそらく自分たちが歌いたい世界を表現しただけであると思われるのに、実に多彩でなにひとつ被らないこと。

 デビューして9年、表舞台で立ってきた4人は、いま4人ともが自分の表現したい世界を明確に持ち、その世界の主としてしっかりとその大地を踏みしめ立っているのがわかる。もちろんまだ若い4人のこと、これからもその世界は様々に彩りを変えてゆくに違いないけれど。

 それでも彼らにはひとりひとりが「自分はこう」と自信を持って言える強さ、輝きがあった。4人ともみんな違ってみんないいと断言できる素晴らしいソロコーナーだった。

 そしてその次、レーザーを使ったソロダンスから続く「make me bright」、「Blessed」はメロウでスローテンポな2曲。彼らの表現力と声の美しさを堪能でき、しっとりとその世界に酔いしれることのできる生歌唱のクオリティの高さにあらためて驚嘆させられる。

 それが終わるとまた舞台は様相を変え、ファン投票によって選ばれた1曲を披露するというコーナーで、万を持して休養していたメンバー松島聡が登場し、最終日は「ぎゅっと」をメンバーみんなが笑顔いっぱいで歌唱して、MCコーナーへと続く。

 その後披露された、11月4日発売の新曲「NOT FOUND」では、今現在の5人が、がむしゃらになって泥臭くとも自分たちの道をただひたすら探し続ける、という曲のテーマに沿った気迫のこもった熱いパフォーマンスに心を打たれた。

 そして、円形のステージに降る霧のような雨のなか、ふるえがくるほどのその歌声の美しさと表現力で魅せてくる「星の雨」、大きく動くステージセットで愛する人との別れを惜しむ様を叙情的にせつなく描いた1曲「One Ability」、花火を使った派手な演出でアイドルらしいバチバチにかっこいい痺れるパフォーマンスを披露した「Spark Light」に続き、今まさにわたしたちの心に寄り添い、励ましてくれる曲「MELODY」を、彼らの後輩であるアイドル候補生たちと笑顔いっぱいで歌い上げた。

 そこからまた一転、がらりとステージは変わる。いきなり大きな白い幕が降りてきたと思えば、そこからメンバーたちが大慌てで着替える様が影となり映し出され、登場してきたのはなんと特攻服を着た4人。

 ミニバイクに乗って縦横無尽に会場を走り回りながらコミカルに歌い上げるのは、昭和の歌謡曲の香りがするレトロでメロディアスな1曲「禁断の果実」。そしてその後の「カラクリだらけのテンダネス」もそうだ。

 彼らは今時の感覚を持つ令和のアイドルでありながら、わたしたちでさえ懐かしいと感じる「哀愁」といったものをも歌唱において体現するのにまったく違和感のない稀有な存在であることがわかる。

 それは彼らの、硬質だったり柔らかだったり、透明感、濡れたようなウェット感、それぞれの多彩な声質からくる表現力の高さかもしれないし、彼らの実直で昔気質な気質がどこか背後にオーバーラップするからかもしれない。

 その後、同じくレトロな昭和テイストを感じさせるロックナンバー「ダヴィンチ」の激しいシャウトで一気にボルテージがあがった後に続くのは、「2020 Come on to Tokyo」。

 彼らを創ってくれた、そもそもの開祖の師である亡き恩師がこの日本が世界中の注目を集める2020年に向けた夢と希望を込めたであろうその1曲。

 様相を変えてしまった2020年は、きっとその人が想い描いたものではなくなってしまったかもしれないけれど、それを歌う彼らの表情はまぶしいほどに晴れやかで、一点の曇りもなかった。

 それに続くジャニーズグループが長年歌いついできたという珠玉のファイトソング「勇気100%」も同じように、無限の可能性を秘めたたくさんの後輩たちとともに、あくまで明るく未来への希望だけを胸に、まばゆいくらいの笑顔でステージに立つ彼らには、かの亡き人の残した「Show must go on」の精神が確かに息づいているのを感じた。

 どんな困難な状況であっても、平和を、エンターテイメントの灯をけして途絶えさせてはいけないというその言葉。はからずもそれはまさに、今この現代を象徴するような言葉となってしまった。

 まだほんの幼き頃にその偉大な人に見出だされ、選ばれてステージに立ち続けてきた彼らが今まさにその言葉を体言するように、わたしたちに全力で愛と勇気を届けてくれた。

 未来はいつだって、その手のなかにある。あきらめない限り夢は続く。つらいときはいつだってそばにいるから、と。

 彼らからのそのメッセージ。歌、笑顔、パフォーマンス。それらで心を救われる人々が日本中にいるのだ。無観客であっても全力で叫び、全力でこちらに呼びかける彼らの姿からは「伝えたい」という強い想いが痛いくらいに伝わってきた。

 それは思わず画面のこちら側でスタオベしたいくらいの、全身全霊をこめた愛と力あふれる華々しいステージであった。

 2020年、配信という形であっても、つながる愛はたしかにここにある。歌はここにある。愛をもってそれを伝えたいと願う人々がいるかぎり。

世界中のどこにいたって、気持ちはつながることができるのだ。

 オーラスと呼ばれる最終公演では、ラストソング「それでいいよ」、そしてアンコール曲である「RUN」に感極まって泣き出した最年少メンバーマリウス葉、そしてその相棒である2年あまりの療養から復帰した松島聡

涙をこらえながらも強く前を見つめてステージに立つふたりを、こちらも涙なしでは見ることができなかった。

彼らの道は平坦ではなく、壁はひとつじゃなかった。5人ではじまり、3人になり、5人に戻ったかと思ったとたんまた4人になり、そうして今、5人は力強く、その意志をひとつにしてまたステージに立つ。

 グループを牽引する年長たちは泣かなかった。

 強く、ただ強くまっすぐ前を見つめ、第2のデビュー曲であり、彼らのこれからの意志表明とも言える「止まらない」という歌詞を圧巻のパフォーマンスとともに歌い上げる。

 ここはまだ終わりじゃない。ゴールはまだまだ遠い道の先。そう告げるかのような、ふるえがくるほどの強い瞳。

 彼らの目指す道のゆく先には、おそらく、きっと「世界」があるんじゃないかな、と思う。

彼らの恩師がこの世を去った時、彼の目指した日本のエンターテイメントを「世界」へ、という夢をはっきり口に出したSexy Zone

 笑われてもいい。

 模倣でなく、傾倒でもなく、ジャパニーズエンターテイメントを「世界」へ羽ばたかせるにはどうすればよいのか?

 この「POP × STEP」がそれを模索し続ける彼らのひとつの布石であり、ある種の宣言であるとしたら、これほど痛快なことはないと思う。

 彼らがこのアルバムにおいて選びとったPOPSという選択。軽妙で、バラードであっても重すぎない。ロックだとしても激しすぎない。楽しい気持ちになったとき、楽しい気持ちになりたいとき、ふと気がつくとつい口ずさんでいるような、そんなあらゆる層の日本人の心に眠っているだろう曲たち。

 彼らはここにきてぐっと深みを増した表現力で多彩なその名曲の数々の魅力を見事に引き出している。

実際、アルバムに曲を提供してくれたアーティストは、メンバーである菊池風磨がメンバーにプレゼンし、交渉に加わったという。そうしたアルバムがファンのみならず、様々な層の人たちに名盤として評価されたのは、間違いなく彼らの大きな1歩なのではないだろうか。

 ジャニーズとして、ジャニーズらしくあるまま、メイドイン ジャパンが世界の扉を叩くことはできるのか。

 9年めの彼らは、まだまだきっと今も「模索中」だ。

この日も力強く披露した新曲「NOT FOUND」において「物足りないや」「もがいて もがいて」と歌うように。

 ネオンに照らされてた子どもたちはいま、自分たちの音楽を探し、自分たちの足で確かな道を歩みはじめたばかりだ。

 わたしがあの素晴らしいステージ、とても言葉になど表現できないと思ったステージについて書いてみようと思ったのは、彼らをまだ詳しく知らない人が、彼らがもし新しいステップを踏み出そうというニュースがあったとき、心の中だけでいいから、ほんの少しだけでもエールを送ってくれたなら、と思ったから。

 2020年、この混沌とした世界で、この時代で、彼らの選びとったステップ。そしてステージ。

 わくわく、ドキドキ、ハラハラ、未知への期待に胸を高鳴らせ、幕が開くあの瞬間の心がはじけるようなきらめき、命の輝き、それこそがエンターテイメント。生命を生かし、心を咲かせるもの。

 ジャニーズとして生まれ、ジャニーズという運命を選んだまま、ぐんと背を伸ばし、ただひたすら未知なる可能性に手を伸ばす。

「POP × STEP」はそんな未来への希望と、彼らの大きな愛、そして強い決意が感じられるようなステージだった。

 余談だけれど、グループを牽引する最年長中島健人が、「スマホタブレット、パソコン前のみんな!Wi-Fi最高か~?!今日もつながっていこうぜ!」と叫んだ時、わたしの隣でまだ赤ちゃんみたいなまあるい頬をぺったりくっつけて見ていた7歳の息子がぽかんとして「どぉゆうこと?」と呟き、わたしはアハハと笑ってしまった。

 悪くない。こういうのもなかなか悪くないなと思う。

開幕のベルが鳴り響き、会場が一体となって興奮と熱気に包まれるあの何にも変えがたい素晴らしい時間、あの空間。ふたたびあの瞬間に巡り会える日が、心から待ち遠しい。

 それでも、愛はここにあった。形は変わってしまっても、ここにも確かにあったのだ。

配信であってもなにも変わらない。彼らの強い想い、「伝えたい」という強い願いによって、無機質で冷たいちいさな窓からでも、たしかに伝わり、つながる想いがあると知った。

 2020年、失うばかりじゃない。失くすばかりじゃない。そこから得るものもあるのだと教えてくれたSexy Zone配信ライブ「POP × STEP」。

 それははるか未来を夢みる彼らの、そして混沌としたこの世界を生きていかねばならないわたしたちの、ちいさな、けれど大きなひとつの「STEP」だった。